コラム
【よくある質問】相続人が一人もいない場合,死後,私の財産はどうなるのでしょうか。
事例
私は,一度も結婚したことがありませんが,長年連れ添った内縁の妻がいます。父母や祖父母は既に亡くなっており,婚外子,兄弟姉妹,甥姪はおりません。つまり,私には法定相続人が一人もいません。
私は,長年連れ添った内縁の妻に自分の財産の全てを残したいと考えています。
このまま私が自分の財産について何ら手当をすることなく亡くなってしまった場合,私の財産はどうなるのでしょうか。
回答
1 相続人が不存在の場合の相続手続きの流れ
被相続人に相続人となる配偶者,子や孫等の直系卑属,親や祖父母等の直系尊属,兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合には甥や姪を含みます。)らが誰もいないと,相続人が不存在の状況となります。
相続人が不存在の状況とは,戸籍上相続人が存在しない場合だけでなく,戸籍上相続人は存在するが,相続人全員が相続放棄をする等して相続人がいない場合が考えられます。
相続人が不存在の場合,相続財産は法人と擬制され,相続財産法人となります(民法第951条)。
そして,利害関係人または検察官からの請求により,家庭裁判所が相続財産を管理する相続財産管理人を選任します(民法第952条)。
相続財産管理人は,相続人,被相続人に対し債権を有する債権者,受遺者等を探す手続きを行います。
同手続きが終了した後,家庭裁判所は,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養監護を行っていた者その他被相続人と特別の縁故があった特別縁故者の請求により,これらの特別縁故者に対し,清算後に残る相続財産の全部または一部を与える手続きを取ることができます(民法第958条の3)。
特別縁故者への相続財産の分与の手続きを経た後もなお相続財産が残った場合,相続財産管理人は残余財産を国庫に帰属させることになります(民法第959条)。
2 本件のケース
本件の相談者は,内縁の妻に対し自身の財産の全てを残したいと考えています。
前述の通り,特別縁故者である内縁の妻が家庭裁判所に請求することによって,相続財産の全部または一部が内縁の妻へ分与される可能性があります。
しかし,特別縁故者に対する相続財産が相当であるか,分与が相当であるなら一部分与か全部分与か,また一部分与の場合の財産の種類・数額等については,家庭裁判所の裁量によって決定されます。
分与すべき財産の種類,数額等を決定する際,家庭裁判所は,被相続人と特別縁故者との縁故関係の厚薄,度合い,特別縁故者の年齢,職業に加えて,相続財産の種類,数額,状況,所在等の事情を考慮して決定すべきとされます(広島高決平成15年3月28日家裁月報55巻9号60頁)。
そのため,相談者の内縁の妻が家庭裁判所に対し,相続財産の分与の請求を行ったとしても,内縁の妻に対する相続財産の分与が,相談者の要望通りに行われない可能性が多分にあります。
そこで,相談者が内縁の妻に対し,要望通りに相続財産を承継するためには,内縁の妻に対し全ての相続財産を遺贈することを明確に記載した遺言書を作成しておくことが必要です。
相続人のいない被相続人は,誰に対して,どのような種類・数額の相続財産を承継させるかを記載した遺言書を作成しておくことにより,老後の面倒を看てくれた遠縁の親戚,生前に特にお世話になった知人,また,母校,公益法人,地方公共団体,福祉・環境問題等に取り組むNPO法人等の団体に自身の意向通りに,相続財産を承継させることが可能になります。
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