コラム

【よくある相談】相続人の中に犯罪者がいる場合,どうすればよいでしょうか。

【設例】

 私には妻と2人の息子がおりますが,今年70歳を迎えるにあたり,相続について考えるようになりました。

 

 ただ,長男は高校を中退した後,家にあったお金を持ち出して使い込んだり,無断で通信販売を利用してその代金を親に支払わせたことがあり,私がこれを注意すると,親に対して暴力を振るうようになったので,その後家族は長男と会話もできない状態になりました。

 

 長男が社会人になってからは,勤務先のお金を使い込んで,私が会社と示談しなければならなかったことがありましたし,その他にも,音信不通となった後にサラ金業者からの借金の返済を長男に代わって家族が何度も求められたりしたため,私たちは本当に心身ともに疲れ切ってしまいました。

 

 ですから,私が大切に貯蓄してきた財産を,長男には絶対に相続させたくありません。私は,妻と次男だけに相続財産を与えたいと考えているのですが,どうすればよいでしょうか。

 

 

【回答】

 ご相談者様は,家庭裁判所に対し,ご長男様を相続人から廃除することを申し立てることによって,ご長男様の相続人としての資格を剥奪することができます。

 

 民法は,相続が開始した場合に相続人となるべき者(ただし,相続財産について最低限の受け取る権利(遺留分(いりゅうぶん))が認められる相続人に限ります。)が,被相続人に対して虐待をしたり,重大な侮辱を加えたり,その他著しい非行があった場合には,被相続人が,その相続人となるべき者の廃除を,家庭裁判所に請求することができると定めています(民法第892条)。

 

 兄弟姉妹以外の相続人(配偶者,子(孫等を含みます。),親(祖父母等を含みます。)には,遺留分が認められるため(民法第1028条),被相続人が,生前贈与や遺言によってそれらの者以外の者に財産を与えたとしても,生前贈与を受けた者や遺言によって相続財産を取得した者は,遺留分を持つ相続人から遺留分を請求されてしまう可能性があります。

 

 そこで,それらの相続人に,被相続人に対する虐待や,重大な侮辱,その他著しい非行があった場合には,その相続人に対する制裁として,相続する資格そのものを奪ってしまうことが認められています。

 

 ここにいう「虐待」と「重大な侮辱」は,「その他の著しい非行」の例示であると考えられています。

 

 「虐待」とは,被相続人に対して精神的又は身体的に苦痛を与えることをいい,「重大な侮辱」とは,被相続人の人格的側面を甚だしく損ねることをいいます。刑法上,暴行罪(刑法第208条),傷害罪(刑法第204条),遺棄罪(刑法第217条から第219条),逮捕監禁罪(刑法第220条)に該当するような行為が「虐待」に,名誉毀損罪(刑法第230条),侮辱罪(刑法231条)に該当するような行為が「重大な侮辱」に当たります。

 

 設例では,ご長男様は,親に対して暴力を振るったり(暴行罪又は傷害罪),会社のお金を使い込んで親に弁償させたり,その他にも家族がサラ金業者からしつこく借金の返済を迫られる事態を招くなど,ご相談者様に甚大な精神的又は身体的な苦痛を与えています。

 

 そして,音信不通であることからも,ご相談者様との家族としての絆,あるいはご相談者様の相続人となるべき者としてのあるべき絆は,完全に壊れてしまっているといえます。

 

 よって,設例では,ご長男様のご相談者様を相続する資格は,家庭裁判所によって剥奪してもらえる可能性が高いものと考えられます(岡山家裁平成2年8月10日審判参照)。

 

 一方,遺留分を有する相続人となるべき者が,罪を犯したからといって,必ずしも相続人の資格が奪われるとは限りません。

 

 設例では,ご長男様は,会社のお金を使い込んでいるので,これは業務上横領罪として犯罪となる行為ではあります。しかし,遺留分を有する相続人となるべき者が,勤務先の会社のお金を横領した事案であっても,その横領行為が,被相続人に不利益を及ぼしたと認められない場合には,家族として,あるいは相続人となるべき者としての絆を破壊したとまではいえないと判断した決定例があります(東京高裁昭和59年10月18日決定)。これに対し,設例では,会社のお金を使い込むことによって親に弁償させており,親に経済的・精神的負担を与えていることから,著しい非行に当たるかどうかを判断するうえで,重要な判断材料となると考えられます。

 

 このように,被相続人に向けられたわけではない非行については,家庭裁判所は相続人の廃除を肯定することに慎重です。また,相続人に被相続人に対する非行があったとしても,被相続人の側にもその原因となるような行為があった場合には,相続人の廃除は認められ難くなります。たとえば,相続人に被相続人に対する暴言があったり,同居していた被相続人を離れて一方的に別居したとしても,これらの相続人の言動が,被相続人の相続人に対する嫌悪感による不当な扱いが原因の一つとなっているような場合には,相続人の廃除が認められなくなる理由となることがあります(仙台家裁昭和48年10月1日審判)。

 

 遺留分を含む相続する資格を完全に剥奪するということは,とても厳しい制裁であるといえます。ですから,家庭裁判所において相続人の廃除が認められるためには,相続人となるべき者による被相続人に対する非行の程度が,著しく大きいといえる必要があるのです。

 

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