コラム

【よくある質問】遺言執行者を指定する場合としない場合で何が違うのでしょうか。

【設例】

 私は70歳を迎え,自らの相続のことについて考えるようになりました。私が死亡した場合の相続人としては妻と息子がおりますが,妻の妹にも財産を残したいと考えています。その理由としては,息子とは仲が悪く疎遠であり,妻も体が弱いため,妻の妹が日ごろ私と妻の世話をしてくれていたからです。息子の遺留分を侵害しないように,自宅不動産(評価額3000万円)は妻に,預貯金4000万円のうち2000万円は息子に相続させ,預貯金のもう2000万円を妻の妹に遺贈しようと思っており,遺言書を作成するつもりです。

 

 懸念事項としては,息子が疎遠で仲もよくないため,妻の妹に対する遺贈の分自己の取り分が減ってしまうことに納得せず,遺言書を作成してもその通りに財産が承継されないのではないかという点です。遺言書をしっかり実現するために遺言執行者という人を指定することができると聞いたことがあるのですが,指定するかしないかで何が違うのでしょうか。

 

 

【回答】

 亡くなった方が遺言を残していた場合,通常は相続人がその遺言内容を実現していく(これを「遺言を執行する」といいます。)ことになります。しかし,本設例のように,遺言の内容によっては,相続人の利益と遺言内容の実現に対立が生じ,相続人による公正な遺言の執行が期待できない場合があります。このように,相続人による公正な遺言の実現が期待できない場合は,遺言執行者という者を指定する(民法第1006条第1項)ことによって,公正に遺言を執行することができます。

 また,上記のように利害が対立する状況でなくとも,専門家等の第三者に遺言執行者を任せることによって,遺言執行手続をスムーズに進めることも可能です。

 

 遺言執行者とは,前述のとおり,相続人に代わって遺言を執行する者です。遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法第1012条第1項)。そして,遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨害する行為をすることができません(民法第1013条)。なお,2019年7月1日には相続法に関する改正民法が施行され,遺言執行者がある場合,遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができるとされます(改正民法第1012条第2項)。

 

 遺言執行者がいる場合は,遺言の執行は遺言執行者に全面的に委ねられ,相続人は遺言の執行に関して何らの権限も義務もないことになります。これは,相続財産を管理したり処分したりする権限(これを「管理処分権」といいます。)を遺言執行者に集中させることで,遺言者の意思を尊重し,公正に遺言を実現させることを目的とします。

 

 遺言執行者は特定の相続人や受遺者(遺贈を受ける者のことです。)の立場に偏ることなく,公平中立な立場でその任務を遂行することになります。

 

 本設例においても,相続人であるご子息の利益と遺言の内容に対立が生じ,遺言の実現にあたって争いになることが予想されるため,遺言書において遺言執行者を指定しておくことが検討されます。

 

 遺言執行者を指定する場合は,遺言執行者が公平中立な立場で遺言の実現を進めることになりますし,ご子息が遺言書の内容に納得しなかったとしても遺言の執行を妨害する行為をすることもできませんので,スムーズに遺言を実現することが可能になるのです。

 

 遺言執行者は未成年者及び破産者以外であれば誰でもなることができます(民法1009条)が,誰を指定するかは重要です。信頼できる親族を指定することもできますし,弁護士等の専門家を指定することもできます。

 

 もっとも,遺言の執行をスムーズに進めたい場合は,相続に詳しい方を遺言執行者に指定することが望ましいため,内容が相続人にとっては不利である場合や,遺言の内容が複雑である場合は,遺言の作成を弁護士に依頼し,遺言の中でその弁護士を遺言執行者として指定しておくことをお勧めいたします。

 

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