コラム

【よくある相談】「父の相続時に相続放棄をした場合において,その後に母が亡くなったとき,母の遺産を相続できるのでしょうか。」

設例

 私の父は平成25年に亡くなり,法定相続人は,私の母,私(次男),私の兄(長男)の3人でした。父の遺産は賃貸用アパートが2棟で,預貯金等はほとんどありませんでした。アパート2棟の管理運営業務を母と兄がほとんど行っていたこともあり,私は父の相続発生後,相続放棄の手続きを行いました。母と兄がアパートをそれぞれ1棟ずつ,預貯金等を2分の1ずつ相続しました。

 

 先月,私の母が亡くなりました。法定相続人は私と兄の2名です。母の遺産は,父から相続したアパート1棟と,総額800万円の預貯金及び株式等です。

 

 私は,父の死亡後,母が相続したアパート1棟の管理運営業務を代わりにやるようになりました。そのため,母の遺産については,法定相続分に従った持ち分を相続したいと考えています。

 

 父の相続発生時に相続放棄をした私は,父の遺産を相続した母の相続発生時に,もはや相続人となることはできないのでしょうか。

 

回答

(1) 相続放棄の効力が及ぶ範囲について

 相続人は,被相続人の相続が開始したことを知ったときから3か月以内に,被相続人の最終の住所地の家庭裁判所に申し立てることによって,相続放棄の手続きを取ることができます(民法938条)。

 

 相続放棄は,相続放棄の意思を家庭裁判所に申述し,申述を受理する旨の審判を得る手続きです。

 

 相続放棄をした者は,その相続人に関して,初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

 

 つまり,そもそも相続人ではなかったのと同様の扱いを受けます。

 

 そのため,当該相続については,放棄者を相続人の数に参入しないで遺産分割の算定を行うことになります。

 

 たとえば,B死亡時にAが相続放棄をしたとします。その後,Bの遺産を相続していたCが亡くなったとき,AはCを相続できるでしょうか。

 

 相続放棄の効力が及ぶのは,当該相続に関してのみであり,その後に発生した別の相続にその効力が及ぶことはありません(民法939条)。

 

 そのため,B死亡時の相続の承認・放棄と,C死亡時の相続の承認・放棄とは全く別問題です。AはC死亡時,Cを相続することができます。

 

 Cの遺産にCがBから相続していた遺産が含まれていても,その結論は変わりません。

 

 

(2) 本件について

 今回,ご相談者は,父の相続発生時にのみ相続放棄の手続きを取られており,相続放棄の効力が生じるのは,父の相続に関してのみです。

 

 そのため,ご相談者は母の遺産を相続できます。 母の遺産に母が父から相続していた遺産が含まれていても,その結論は変わりません。

 

 よって,ご相談者が,欠格(民法891条)や廃除(892条)事由に該当し,相続する資格を失わない限り,過去に放棄した父の財産であったものについても,母の相続財産として法定相続分に従い相続できることとなります。

 

 なお,欠格とは,民法891条に定める一定の事由(欠格事由)が存在する場合に,被相続人の意思とは関係なく,当然に相続人となる資格が奪われる制度です。

 

 民法891条には,欠格事由として,「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者」(同条第1号)や,「被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者」(同条第2号)等が規定されています。

 

 廃除とは,推定相続人について民法892条に定める廃除事由があるときに,家庭裁判所の審判を得ることにより被相続人の意思に基づいて推定相続人の相続資格を奪う制度です。

 

 民法892条には,廃除事由として,「被相続人に対して虐待をし,若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき,又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」と規定されています。

 

 

 

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