コラム

【よくある相談】親が多額の借金を残して亡くなった場合,どうすればよいでしょうか。

【設例】

 先日,商店街で文房具店を経営していた父が急逝しました。実家から上京して大手企業に就職し,多忙な生活を送っていた私は,父とはもう何年も会っていませんでした。

 

 急な知らせに驚いて帰省した私は,葬儀を済ませ,父の遺品の整理に取り掛かったところ,父名義での複数の金融機関からの借金があることが判明し,中には返済を滞納しているものもありました。どうやらしばらく赤字経営が続いていたようです。

 

 私は父の借金を相続してしまっていると思うのですが,とても返せるような金額ではありません。どうすればよいでしょうか。

 

 

【回答】

 ご相談者様は相続放棄という手続を利用することによって,お父様のお借入による金融機関に対する返済義務を相続することを免れることができます。

 

 相続には,プラスの財産(積極財産)だけではなく,マイナスの財産(消極財産),つまり借入金などの受継ぎも起こります。そのため,相続財産として消極財産しかなかったり,積極財産があっても消極財産の方が多い場合には,相続人は相続により負債を負うことになってしまいます。

 

 このような場合に,相続人が負債を負うことにならないようにするため,相続放棄という手続きが認められています。

 

 相続放棄をするためには,被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所において,相続放棄の申述(しんじゅつ)という手続きを,相続が起こったことを知ったときから,原則として3か月以内に行う必要があります(この期間を熟慮期間といいます。申立てにより,家庭裁判所が熟慮期間を伸長することができます。熟慮期間については,後述します。)。

 

 この手続きを利用するためには,家庭裁判所に対し,「相続放棄の申述書」という相続放棄の理由などを記載した書面をはじめ,下記の表に記載された必要書類を提出して申し立てます。

 

 また,費用(相続放棄をする相続人1人につき収入印紙800円分と,家庭裁判所からの連絡用の郵便切手(各家庭裁判所に切手の種類や枚数を確認する必要があります。))の納付が必要となります。

 

 

 

<相続放棄する方>

  <必要書類>

共  通

 

  (1)被相続人の住民票除票又は戸籍附票

  (2)相続放棄する方の戸籍謄本

 

被相続人の配偶者

 

  (3)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

 

被相続人の子(又は孫若しくは曾孫)

 

  (3)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (4)子又は孫の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

     (相続放棄する方が孫又は曾孫の場合)

 

被相続人の父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)

  (3)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍

     (除籍,改製原戸籍)謄本

  (4)被相続人の子(又は孫若しくは曾孫)が死亡している場合,

     その子(又は孫若しくは曾孫)の出生時から死亡時までの

     すべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (5)被相続人の父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)で

     死亡している方がいる場合(相続人より下の代である場合に

     限ります。),その父母(又は祖父母若しくは曾祖父)の

     死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

被相続人の兄弟姉妹(又は甥姪)

 

  (3)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍

     (除籍,改製原戸籍)謄本

  (4)被相続人の子(又は孫若しくは曾孫)で死亡している方がいる場合,

     その子(又は孫若しくは曾孫)の出生時から死亡時までの

     すべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (5)被相続人の父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)の

     死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (6)相続放棄する方が甥姪の場合,兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍

     (除籍,改製原戸籍)謄本

 

 

 相続放棄の申述書が受理されると,家庭裁判所は,相続人の相続放棄の意思が真意であるかどうか(他の相続人などから相続財産を受け取らないように強要されていないかなど)について調査のうえ審査が行われます。ただし,実際は、形式的に審査が行われること(書類のみによる審査)がほとんどです。

 

 相続放棄をすれば,積極財産だけではなく,消極財産である負債もまた相続しないことになるため,設例のように被相続人が多重債務を抱えているような場合には,その責任を一切免れることができます。

 

 しかし,被相続人に資産を超える借金等があるのにもかかわらず,相続放棄という手続きを知らずに,そのまま被相続人の負債を受け継いでしまう方もいらっしゃいます。そのような事態に陥らないように,被相続人に資産を超える負債がある場合には,必ず相続放棄の手続きを行いましょう。

 

 もっとも,経済的事情などから,相続財産を少しでも受け取りたいとお考えの方にとっては,相続放棄をしてしまうと,相続財産を相続することができなくなってしまうことになります。たとえば,相続財産を受け取ることを期待はしていたものの,積極財産よりも消極財産の方が多いと考え,仕方なく相続放棄したところ,後から積極財産の方が多いことが判明したような場合に,相続放棄をなかったことにして,翻って相続することは原則としてできなくなりますので(そのような誤解が他の相続人に騙されたために生じた場合などには,例外的に相続放棄の取消しが認められる場合があります。),慎重な対応が必要となります。

 

 ただし,被相続人の積極財産と消極財産がどれだけあるのか,すぐにはわからないこともあります。相続財産を調査した結果,消極財産の方が多かったけれども,既に熟慮期間の3か月が経過していたという事態は避けなければなりません。そのために,後述する熟慮期間の伸長という手続きが認められていますので,この制度を利用して相続財産の調査を十分に行うことが必要です。

 

 熟慮期間は,相続が起こったことを知ったときから3か月以内です。「相続が起こったことを知ったとき」とは,原則として「相続が開始したこと」及び「自己が相続人となったこと」を知ったときです。

 

 ただし,3か月以内に相続放棄を行わなかった理由が,被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり,そのように信じたことが相当であるといえる場合には,熟慮期間は,相続人が,相続財産が存在すると認識するか,通常であれば認識できたといえるときから3か月以内となります。

 

 相続人が,相続財産の状況を調査しても,なお,相続すべきか,あるいは相続放棄すべきか決められない場合には,家庭裁判所に対し,熟慮期間を伸長することを申し立てることにより,熟慮期間の伸長を認めてもらうことができます。

 

 なお,熟慮期間は,相続人が複数いる場合には,それぞれに熟慮期間が始まる時点が異なりますから,各々の相続人が個別に申立てを行う必要があります。

 

 また,仮に,設例でお父様の親族としてご相談者様の父方の祖母の方がいらっしゃった場合,原則としてご相談者様が第1順位の相続人として全ての相続財産を相続することになりますが,ご相談者様が相続放棄したときは,第2順位の祖母の方が相続人となります。

 

 ご相談者様の熟慮期間は,相続が起こったことを知ったときから3か月以内ですが,祖母の方は,ご相談者様が相続放棄するまでは相続人ではありませんから,祖母の方の熟慮期間は,ご相談者様が相続放棄をしたために,自分が相続人となったことを知ったときから3か月以内となります。

 

 申立てには,相続放棄の申述のように,下記の表に記載された必要書類と,費用(相続人1人につき収入印紙800円分と,家庭裁判所からの連絡用の郵便切手(各家庭裁判所に切手の種類や枚数を確認する必要があります。))を納付する必要があります。

 

 

 

<申立人>

  <必要書類>

共  通

 

  (1)被相続人の住民票除票又は戸籍附票

  (2)利害関係人の場合,利害関係を証する資料(親族の場合は,戸籍謄本等)

  (3)伸長を求める相続人の戸籍謄本

 

被相続人の配偶者に関する場合

 

  (4)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

 

被相続人の子(又は孫若しくは曾孫)に関する場合

 

  (4)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (5)子又は孫の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

    (申立人が孫又は曾孫の場合)

 

被相続人の父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)に関する場合

 

  (4)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍

    (除籍,改製原戸籍)謄本

  (5)被相続人の子(又は孫若しくは曾孫)で死亡している方がいる場合,

     その子(又は孫若しくは曾孫)の出生時から死亡時までの

     すべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (6)被相続人の父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)で

     死亡している方がいる場合(相続人より下の代である場合に

     限ります。)、その父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)の

     死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

 

 

被相続人の兄弟姉妹(又は甥姪)に関する場合

 

  (4)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍

    (除籍,改製原戸籍)謄本

  (5)被相続人の子(又は孫若しくは曾孫)で死亡している方がいる場合,

     その子(又は孫若しくは曾孫)の出生時から死亡時までの

     すべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (6)被相続人の父母(又は祖父母若しくは曾祖父母)の

     死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

  (7)申立人が甥姪の場合,兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍

     (除籍,改製原戸籍)謄本

 

 

 ここで注意しなければならないのが,相続人が,熟慮期間内に相続放棄の手続きをとらなかったときだけではなく,一定の行為をした場合には,相続放棄ができなくなってしまうということです。これを法定単純承認といいます。法定単純承認となるのは,以下の3つの場合です。

 

 第1に,相続人が,相続放棄を選択する前に,相続財産の一部でも処分してしまったときです。

 

 ただし,遺産を維持するための行為や,一定の期間以内の賃貸借はこの処分には当たりません(樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借は10年,それ以外の土地の賃貸借は5年,建物の賃貸借は3年,動産の賃貸借は6か月までとなります。)。

 

 第2は,前述のとおり,相続人が熟慮期間内に相続放棄をしなかったときです。

 

 第3に,相続人が,相続放棄を選択した前後を問わず,相続財産を一部でも隠すような行為をしたり,消費したり,財産目録の中に故意に相続財産を一部でも記載しなかったときです。

 

 ただし,これらの行為をした相続人が相続放棄をしたことによって,相続人となった方が相続の承認をした後であれば,これらの行為が行われたとしても,その相続放棄には影響はありません。

 

 なお,相続人が,被相続人が死亡したことを知らずに相続財産を処分した場合などには,法定単純承認とはならないと考えられています。つまり,相続人が相続の開始を知っていたか,あるいは被相続人が死亡したことを確実に予想していた場合でなければ,法定単純承認とはなりません。

 

 このように,相続財産として,被相続人に消極財産が残る可能性があるようでしたら,法定単純承認が成立しないように気をつけながら,熟慮期間内に相続放棄の利用を検討しましょう。

 

 

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