コラム

【よくある質問】音信不通の相続人がいる場合,どうしたらよいでしょうか。

Q(相談内容)

 1か月前に父が亡くなりました。父は遺言書を残していませんでした。相続人全員で遺産分割協議を行おうと思っているのですが,どうしても相続人の一人である長兄と連絡が取れません。長兄の住民票の住所地は分かっており,手紙を何度か送りましたが,一度も返信がありません。そこで,先日,私は長兄の住民票の住所地を訪れましたが,郵便ポストにはチラシ等がたまっているだけで,住んでいる様子はありませんでした。

 

 遺産分割協議は,長兄の行方が分かり,相続人全員がそろうまで,一切進めることができないのでしょうか。

 

A(回答)

 遺産分割は,相続人全員の間で,分割前の遺産の共有状態を同時に解消させる性質のものですので,遺産分割協議には相続人全員が参加し,相続人全員が同意する必要があります。

 

 今回のケースのように,いくら相続人の一人と連絡がつかないからといって,残りの相続人だけで勝手に遺産分割協議を進めることはできません。たとえ音信不通の相続人を除く残りの相続人で遺産分割協議を行ったとしても,それは法的に無効です。

 

 音信不通の相続人がいる場合に,遺産分割協議を進めるには,以下の2つの方法が考えられます。

 

 

1 財産管理人選任の申立

 他の相続人が不在者の財産管理人(民法25条1項)の選任を家庭裁判所に申し立てます。財産管理人とは,行方が分からない方の代わりにその方の財産を管理する権限を与えられた者のことです。

 

 そして,家庭裁判所が選任した財産管理人に,行方不明の相続人の法定代理人として遺産分割協議に関与してもらいます。

 

 ただし,財産管理人の権限は,原則として不在者の財産の維持や管理に限定されています(民法28条,同103条)。

 

 財産管理人が遺産分割協議に同意するには,別途,家庭裁判所の許可が必要になりますので,その点はご留意ください。

 

 

2 失踪宣告の申立

 音信不通になってから何年も経過している,又は行方が分からなくなった原因が事故や災害によるものと考えられる場合には,失踪宣告という選択肢があります。

 

 失踪宣言とは,生死不明の状態が7年間続いたとき又は事故や災害があってから1年間生死不明であったときに,法律上の利害関係を有する者からの請求により,生死不明の者を法律上死亡したものとみなす制度です(民法30条)。

 

 前者の場合には,最後の音信の日から7年間が満了したときに,後者の場合には,事故や災害等の危難が去ったときに,行方不明の方は死亡したものとみなされます(民法31条)。

 

 他の相続人が家庭裁判所に失踪宣告の審判を申し立て,その審判が確定すると,行方不明の相続人は上記の時期に死亡したものとみなされます。

 

 そして,行方不明の相続人が死亡したものとして遺産分割協議を進めることができることになります。

 

 ただし,失踪宣告の審判が確定した場合でも,新たな相続人を遺産分割協議に入れなければならないことがあります。

 

 まず,行方不明の相続人が死亡したとみなされる日が,被相続人の死亡した日より前であった場合には,代襲相続が発生し得ます。代襲相続とは,被相続人が死亡したとき,本来相続人になるはずだった方が先に死亡等していた場合に,その子・孫等が代わって相続人になる制度です。

 

 よって,代襲相続が発生する場合には,代襲相続した相続人を入れて遺産分割協議を行う必要があります。

 

 次に,行方不明の相続人が死亡したとみなされる日が,被相続人の死亡した日より後であった場合には,行方不明の相続人の法定相続人が死亡したとみなされた者の地位を引き継ぐことが考えられます。

 

 その場合には,死亡したとみなされた方の法定相続人を入れて遺産分割協議を行う必要があります。 

 

 それでは,行方不明の相続人が現れた場合は,行方不明の相続人を除いて行った遺産分割協議は無効になるのでしょうか。

 

 行方不明の相続人が現れて失踪宣告の取消しを申し立て,それが認められた場合には,失踪宣告はさかのぼってその効力を失います。

 

 このような場合でも,失踪宣告を信頼した相続人を保護する必要があることから,遺産分割協議は無効にはなりません(民法32条1項)。

 

 ただし,失踪宣告を前提として,遺産分割協議の結果,利益を受けた相続人は,現に利益を受けている限度(手元に残っている相続財産があればその限度)においてのみ,その財産を返還する義務を負います(民法32条2項ただし書き)。

 

以上です。

 

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