コラム

【よくある相談】「母の遺産を兄が独り占めしようとしています。どうすればよいでしょうか。」

【事例】

 私の父は,5年前に亡くなり,その際,母が父の全ての遺産を相続しました。

 父が亡くなった直後,母が癌であることが判明し,入院治療中の母の世話は全て私が行っています。母の相続人は,私(長女)と兄(長男)の2人です。

 

 兄は,他県に暮らしていますが,母は,昔から出来のよい兄を何かと頼りにしています。

 兄は,時々母を見舞い,時機を見て実家に戻る予定であるなどと母を安心させることを言っています。兄は,母に遺産全てを兄へ相続する内容の公正証書遺言を母に作成させることを考えているようです。

 

 私は,兄に全ての遺産が渡ることを黙って見ているしかないのでしょうか。そして,私はこれまで献身的に母の看病をしてきたにもかかわらず,その点について何も主張することができないのでしょうか。

 

【回答】

 母が遺産全てを兄に相続する内容の遺言を作成していた場合でも,相続発生後,相談者は兄に対して,遺留分減殺請求権を行使して,自己の遺留分を渡すよう請求することができます。

 

 被相続人は,遺言を作成すれば,自由に,法定相続人または法定相続人以外の者へ全ての財産を相続させ,または遺贈することができます。

 

 しかし,それでは残された相続人が住む家を失ったり,生活ができなくなるという事態も起こり得ます。こうした相続人に不利益な事態を防ぐため,民法では,相続財産の一定の割合の取得を相続人に保証しています。それが,遺留分です。

 

 ただし,相続人の遺留分を侵害する遺言も,当然に無効となるわけではありません。遺留分を取り返す権利を行使するかどうかについては相続人の自由であることから,遺留分を侵害された相続人は,遺留分減殺請求権を行使する必要があります。

 

 行使の方法は,必ずしも裁判所における手続き(遺留分に関する事件は,訴訟を提起する前にまず調停を行わなければならない調停前置主義が取られています。)による必要はありません。理屈上は遺留分減殺請求を行うという意思表示がなされればそれで足りるのですが,後ほどご説明する時効との関係で,意思表示をしたことについて,証拠を残しておく必要があるため,配達証明付きの内容証明郵便の方法がよいでしょう。

 

 そして,相続財産に対する各相続人の遺留分は民法に規定されています(民法1028条)。今回のケースでは,相談者の遺留分は,被相続人の財産の4分の1になります。

 

 また,遺留分減殺請求権も消滅時効にかかってしまいますので,注意が必要です。

相続の開始や遺言の存在などを知ったときから1年以内に,遺留分を侵害している相手方に請求しなければ,その権利は消滅します(民法1042条)。

 遺留分についてのご説明は以上ですが,相談者には,これまで献身的に母の看病をしてきたにもかかわらず,その点について何も主張することができないのかというご不満があります。

 

 相続人の中に被相続人の財産の維持または増加について特別の貢献をした者がいる場合,他の相続人との公平を図るために,その者の寄与度に応じて,相続分以上の財産を取得させる制度があります(民法904条の2第1項)。寄与分と呼ばれる制度です。

 

 それでは,相談者は,遺留分減殺請求時に自己の遺留分のみならず,寄与分を請求することは可能なのでしょうか。

 

 この点については,遺留分減殺請求の制度が,遺留分侵害額以上の請求までを保護する趣旨ではないことから,遺留分減殺請求権の行使時に,遺留分請求権者は自らの寄与分までを主張することは,残念ながら認められていません。

 

 以上が,相続発生後に相談者が取るべき対応になりますが,本来ならば,争いは未然に防いでおくのが理想的です。

 

 被相続人である母のご存命中に,相談者と母の間で普段から相続について話をする機会を持ち,自らも財産を受け取る意向があること,兄に全ての財産が渡った場合,遺留分の制度があり,兄と相談者が揉める原因になってしまうことを説明しておくべきでしょう。

 

 そして,母が理解し,将来の兄妹間の紛争を防止しておく意向を持ったときは,弁護士に相談し,遺留分を考慮した遺言書を作成しておかれるのが安心です。

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