コラム

【よくある相談】パソコンで書かれている遺言書は有効でしょうか。

【設例】

 数日前に父が亡くなり,私と兄で父の遺品整理をしていたところ,「遺言書」と書かれた封筒が見つかりました。家庭裁判所に提出し,私と兄の立会いの下で開封してもらうと,実家の土地建物を兄に譲るという内容の遺言が書かれた紙が入っておりました。文章自体はパソコンで打ったものが印刷されており,末尾に父の署名と押印がされておりました。

 

 父には実家の土地建物のほかにめぼしい財産がなかったため,この遺言には正直納得できていません。パソコンで書かれた遺言なんて無効なのではないでしょうか。

 

【回答】

 パソコンで書かれた遺言書は,秘密証書遺言という遺言の方式としての条件を満たさない限り無効となります。

 

 遺言書が有効であるためには,民法の定める方式に従って作成される必要があります(民法960条)。遺言の効力が問題となるのは遺言者が死亡してからですので,その内容に疑問があっても真意を確認することはできません。そのため,死亡した後に相続人の間で争いにならないよう,方式に従った遺言のみ有効と扱うこととされています。

 

 民法では,遺言書の方式として,①自筆証書遺言(民法968条),②公正証書遺言(民法969条),③秘密証書遺言(民法970条)の3つの方式が定められています。原則として,この3つの方式のどれかにあてはまらなければ,有効な遺言書とはいえません(なお,これらの方式のほかに,遺言者が死亡の危機にある場合や,隔絶された地にいる場合等特別の場合にのみ利用できる方式もあります。)。

 

 まず,①自筆証書遺言は,その名の通り,遺言者が自筆でその全文,日付及び氏名を書き,それに押印しなければなりません。したがって,文章がパソコンで書かれた遺言書は自筆証書遺言にあたりません。

 

 次に,②公正証書遺言の場合は,公証人役場へ行き,公証人に遺言の内容を口頭で伝え,公正証書というかたちで遺言書を作成してもらいます。

公正証書遺言は公正証書という特殊な形式の書面ですので,設例の遺言書は公正証書遺言でもなさそうです。

 

 最後に③秘密証書遺言ですが,この方式は遺言書に遺言者の署名押印がされていれば,本文自体はパソコンで書かれていても問題ありません。しかし,この方式は,遺言書を封筒に入れて遺言書と同じ印鑑で封を閉じ,それを公証人に提出し,封筒に公証人の署名押印等をしてもらう必要があります。封を閉じると遺言書は読めなくなってしまうので「秘密証書」というわけです。

 

 設例の遺言書についてみると,封を閉じられた封筒に入ってはいたものの,公証人の署名押印等がされていないので,秘密証書遺言の方式にも合っていません。

 

 こうしてみると,設例の遺言書は上記3つの方式のいずれにもあてはまりません。よって,この遺言書は民法の定める方式に従っておらず,無効であるということになります。お父様の遺産をどうするかは,遺言書によらず,お兄様と話し合って決めることになるでしょう。

 

 最後に,逆に遺言書を残す側になったときのことを考えますと,遺言書が無効となってしまわないよう,しっかり上記のような方式に従って作成する必要があります。自分で作ることももちろんできますが,間違ってしまうと上記のように無効となってしまう可能性があるので,不安があれば弁護士に相談してみるとよいでしょう。

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