コラム

公正証書遺言のススメ

 公正証書遺言を作成する方が増えています。日本公証人連合会によれば、平成28年に作成された公正証書遺言は、10万5350件に達しており、平成19年の7万0160件と比べると、ほぼ1.5倍も増加しています。公正証書遺言を作成された方々は、どのような思いで、手続きをされたのでしょうか。なぜ、費用をかけず、自宅でじっくりと手紙を書くように作成できる自筆証書遺言ではなく、敢えて費用や労力がかかり、また内容を秘密にもできない公正証書遺言という手段を選択したのでしょうか。

 

 今回は、公正証書遺言について、その効用をご説明します。

 

1. 公正証書遺言とは

 公正証書遺言とは、法務局等に所属する公証人(公正役場において業務を行っています。)が作成する公正証書によってする遺言のことをいいます。なんだかむずかしそうだなという印象をお持ちになるかもしれません。なるほど、法律の専門家である公証人に作成してもらいますから、遺言書の文面が、たとえば自分で遺言書を自宅で書くよりはむずかしくなることは確かです。しかし、その文面は遺言者が考えなければならないわけではありません。公証人は、遺言者の希望が法的に実現できるかどうかを区別したうえで、法的に実現可能な内容であればその内容ができる限り有効となるように、その文章を考えてくれますから、身構える必要はありません。むしろ、公証人が、このような専門的な視点から遺言書を作成してくれるわけですから、公正証書遺言は、最も安心できる遺言書の作成方法なのです。

 

2. 公正証書遺言のメリット

 公正証書遺言を作成するメリットは、何といっても遺言者の相続の希望ができる限り法的に有効となるように、法律の専門家である公証人に作成してもらえることです。さらに、公正証書遺言の作成を弁護士に依頼すれば、その作成の打合せを互いに法律の専門家である公証人と弁護士が行いますから、遺言書に記載する文面が、法的に有効であるのかを、2人の専門家がチェックすることになります。これに対し、自筆証書遺言の場合には、法的に実現できることとできないことの区別がつかないまま、遺言者が1人で作成する場合が多いことから、その内容が法的に実現できなかったり、曖昧な表現で記載されているなどの理由で複数の解釈が可能となり、相続人の間でトラブルになることが珍しくありません。公正証書遺言の場合には2人の専門家が遺言者の希望が叶うようにいろいろな方法を考えてくれますから、その希望が実現できる可能性が高くなります。この点が公正証書遺言の最大のメリットであるといえるでしょう。

 

 その他にも、公証人により遺言者の本人確認がなされるため、遺言者以外の者により作成されたという疑いが生じ難いことや、原本が公証役場で保管されるため、紛失や偽造、変造のおそれがないことなどを挙げることができます。

 

3. 公正証書遺言作成の流れ

 ご自身が自ら公証役場に赴き、公証人と打ち合わせて、公正証書遺言を作成することももちろん可能です。しかし、公正証書遺言の作成を弁護士に依頼すると、弁護士は公証人との打合せや、必要書類の取り寄せなどを代わりに進めてくれますから、遺言者は、弁護士からの手続きの進み具合の報告を受けながら、遺言書を最終的に作成するときだけに、最低限の必要書類等を持って公証役場に行けばよいことになります。

 

 公証役場では、公証人は、原則として、遺言者に印鑑登録証明書を提出させ、実印を持参させることにより、本人確認を行っています(印鑑登録証明書に換えて、運転免許証等でも可能な場合があります。)。その他の必要書類などは、弁護士に依頼していれば、予め代わりに弁護士が提出してくれますから、改めて持参する必要はありません。証人2人の立会いの下(証人は、公正証書遺言の作成を法律事務所に依頼しているのであれば、その法律事務所のスタッフが務めてくれることが多いです。)、遺言書の内容を確認するための読み聞かせなどの手続きを経て作成されます。

 

4. 公正証書遺言の費用

 公正証書遺言の作成手数料は、遺産の価格に応じた手数料がまず基準となり、その他相続や遺贈を受ける人の数や、公証人の出張の有無、公正証書の原本や正本、謄本の枚数などにより、総額が確定します。たとえば、1億円の相続財産を妻に6000万円、長男に4000万円を相続させる場合の遺言書ですと、概ね8万円強となります。

 

 一方で、遺言者が病気などにより公証役場に行くことができない場合に、公証人が遺言者の下に出張して上記の公正証書遺言を作成する場合には、概ね12万円程度に公証人が要した交通費と日当(1日2万円、4時間までなら1万円)が加算されて総額が決まります。

 

 その他、公正証書の原本、正本、及び謄本には1枚当たり250円の手数料がかかるなど(ただし、原本については法令により定められた枚数を超える場合にのみ手数料がかかります。)、細かい手数料が別途発生する場合があります。

 

 また、弁護士に公正証書遺言の作成を依頼するのであれば、別途弁護士費用として、10万円から30万円程度が必要になります(あくまでも目安です。)。

 

 このように、公正証書遺言は、自分で作成すれば費用がかからない自筆証書遺言と比べれば、たしかに費用は高額です。しかし、弁護士に公正証書遺言の作成を依頼した場合には、最低でも公証人と弁護士の2名の法律の専門家が、あなたの希望をできる限り実現できるような内容の遺言書を考えてくれます。費用はかからないかもしれないけれど、せっかく書いた自筆証書遺言が後々無効になったりトラブルを招いたりしたのでは本末転倒です。公正証書を作ることで、法的な確実性が高まり、トラブルも相当程度避けられるのであれば、上記のような費用も決して高くないといえる場合が多いのではないでしょうか。もし、ご自身の相続に実現したいご希望があるのであれば、公正証書遺言の作成を弁護士に依頼されることをおススメします。

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