コラム

遺言書を書くことによるメリット

 団塊の世代が75歳を超える後期高齢者となることによって、さまざまな問題が生じることが指摘されている、いわゆる「2025年問題」に象徴されるように、日本は超・高齢化社会に突入しています。このような状況の中で、ご自身の相続が起こった後に、これまで築いてきた財産や、家族の将来がどうなるのかについて思いを馳せる方も急増しており、公証役場での公正証書遺言の作成件数も増加の一途を辿っています。遺言を残しておいたほうがいいのかなと漠然とお考えになっている方も多いのではないでしょうか?遺言書を作成しておくことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 

 今回は、遺言書を書くことによるメリットについて、ご説明します。

1.遺言者の希望通りに遺産を与えることができる。

 遺言書がない場合には、法律の規定で誰が相続人となるのか、そして、相続人ごとに相続の割合が決まりますが、具体的にどの財産をどの相続人が引き継ぐのか等についての話合いは必要になります。よって相続人全員によって、遺産を具体的にどう分けるのかを話し合わなければなりません。この話し合いのことを、遺産分割協議といいます。遺産分割協議では、話し合いがまとまらずに、仲の良かった家族の関係が壊れ、絶縁状態になってしまったなどという残念な話もめずらしくはありません。遺言書を作成する大きな目的の一つは、このような相続人の間でのトラブルを避けるために、遺言者が、どの遺産を、誰に相続させるのかということを決めることです。

 

 また、遺言書がなければ、原則として、自分の相続時に遺産を第三者に与えることはできませんが、遺言書に記載することによって、第三者に遺産を与えることができます。このことを、遺贈(いぞう)といいます。たとえば、長年家族のように付き合ってきた親友のように、大切な方に遺産を遺贈することができます。

 

 もちろん、遺言書に記載した特定の相続人に遺産を相続させることや、第三者に遺贈する内容が、すべてその通りに法律上認められるわけではなく、限界があることも事実です(この限界については、「遺留分制度」などの項目をご覧ください。)。しかし、正しい法的知識をもとに、出来る限り遺言者の希望が叶うように遺言を作成しておけば、遺産に関するトラブルが回避できる可能性は格段に高くなります。たとえば、放蕩の限りを尽くし、親に迷惑ばかりかけてきた息子と、親孝行で、親が高齢となってからは献身的に介護を努めた娘の2人が相続人だった場合に、その放蕩息子が、相続が起こるや否や、娘と同等に遺産を相続させろと要求してきたら、遺産分割協議はとてもまとまらないでしょう。このような場合に、遺言書によって、息子にはできる限り遺産を相続させないようにすることができます(その際、息子にも最低限保障されている「遺留分」を侵害しないように注意することになります。)。

 

2.遺産分割手続きが不要になる。

 先ほどもご説明したように、相続が起こった場合、遺言書がないのであれば、相続人の方々は、どのように遺産を分配するのか、相続人全員により話し合って決めなければなりません。

 

 しかし、遺産分割協議に関しては、相続人の間で話し合いがまとまる、まとまらないという話以前に、そもそも全く付き合いがないばかりか、遠方で暮らしているために連絡も取れない相続人がおり、協議自体の実施が困難な場合があります。そのような場合に、その相続人を除外して協議をしても、その遺産分割協議は無効とされてしまいます。また、協議がまとまらずに裁判所での解決(遺産分割調停や遺産分割審判など)が必要になると、調停が成立したり、審判が下されるまでの間に何年もかかってしまうことも珍しくありません。このように、遺言書がないと、相続人の方々が非常に多くの時間と労力を割かなければならなくなる事態に見舞われかねません。

 

 しかし、遺言書が法律の規定に配慮して適切に作成されていれば、共同相続人らが遺産分割協議をする必要がなくなり、相続にまつわるトラブルが起こることを可能な限り回避することができます。

 

3.遺言執行者を付けることで、相続手続きがスムーズに完了する。

 遺言書では、相続人全員に代わって遺言書の内容を実現する手続きを行うことができる「遺言執行者」を指定することができます。遺言書の内容を実現するのは、本来は相続人であり、相続人が複数いる場合には、たとえば預貯金の払戻しや、第三者に対する遺贈があった場合には不動産の所有権移転登記を、全員が共同して行わなければなりません。しかし、遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者だけで遺言書の内容を実現することができます。たとえば、不動産の遺贈があった場合には、遺贈を受けた方と遺言執行者との共同申請による所有権移転登記が行われます。

 

 また、遺言執行者を指定すれば、遺言執行者に遺言の公正な実現をさせるため、相続人は、遺産の処分などの遺言の内容の実現を妨げるような行為をすることができません。たとえば、遺産の中に不動産があり、遺言者がその不動産を共同相続人の1人に相続させたにもかかわらず、他の共同相続人が自分の法定相続分について相続登記をしたうえ、第三者に売却して登記を移転したとしても、その処分は無効となります。さらに、遺言によって実現できる内容には、認知の届出や家庭裁判所での推定相続人の廃除の申立てのように、遺言執行者がいないと実現できない手続きもあります。

 

 このように、遺言書を作成すれば、ご自身の相続後に対する願いを実現しやすくなります。相続後のご希望があるのであれば、弁護士に相談して、遺言書を作成しましょう。

その他のコラム

  • 相続財産調査とは

    1 はじめに  相続が起こり,相続人が複数いるにもかかわらず,遺言書で全ての遺産の承継先が定められていない場合 […]

    詳しく見る
  • 【よくある質問】お腹の中の赤ちゃん(胎児)や未成年者は相続人になれるのでしょうか。

    【設例】  私には夫と5歳の長男がいます。最近,第2子の妊娠も分かりました。しかし,夫が不慮の事故に巻き込まれ […]

    詳しく見る
  • 相続人調査とは

    1 はじめに  相続が起こり,相続人が複数いるにもかかわらず,遺言書で全ての遺産の分け方が定められていない場合 […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】相続人の中に認知症の人がいる場合,どうすればよいでしょうか。

    【設例】  母に先立たれ,近年一人暮らしをしていた父が亡くなりました。父は資産家でしたので,多くの遺産がありま […]

    詳しく見る
  • 遺産分割調停,審判について

    1 はじめに  家庭裁判所での手続きを要せずに遺産分割を行うためには,協議分割,すなわち遺産分割協議という相続 […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】孫に遺産を引き継がせたい場合,どうすればよいでしょうか。

    【設例】  私は現在,孫と一緒に暮らしています。妻に先立たれ,家族は息子夫婦と孫だけです。息子夫婦は仕事の関係 […]

    詳しく見る
  • 遺産分割の方法,遺産分割協議の進め方

    1 はじめに    相続が起こり,相続人が複数いるにもかかわらず,遺言書で全ての遺産の分け方が定めら […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】亡くなった人(被相続人)が認知症になった後に作成した遺言は,有効なのでしょうか。

    【設例】  先月,87歳の母が亡くなりました。母は80歳を過ぎた頃から認知症の症状が出始め,実家で母と同居して […]

    詳しく見る
  • 遺産分割の参加者と法定相続分について

    1 はじめに    相続が起こり,相続人が複数であるにもかかわらず,遺言書で全ての遺産の分け方が定め […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】「母の遺産を兄が独り占めしようとしています。どうすればよいでしょうか。」

    【事例】  私の父は,5年前に亡くなり,その際,母が父の全ての遺産を相続しました。  父が亡くなった直後,母が […]

    詳しく見る
  • 遺産分割が必要になる場合,遺産分割の対象

    1 はじめに  相続が起こり,相続人が複数であるにもかかわらず,遺言書で全ての遺産の分け方が定められていない場 […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】認知症の母に書かせた遺言書は無効ではないのでしょうか。

    【設例】  私には母と兄がおり,母と兄は実家で同居していました。先日母が亡くなったのですが,母は遺言書を残して […]

    詳しく見る
  • 相続手続きの流れ(遺言書がない場合)

    1 相続人調査  遺言書がない場合(遺言書があったとしても,個々の遺産を誰に承継させるのかについて,遺産の一部 […]

    詳しく見る
  • 相続手続きの流れ(遺言書がある場合)

    1 遺言書の有無により,手続きの流れが異なります。   相続手続きの流れは,被相続人が遺言書を遺したかどうかに […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】遺言書を発見したら,どうすればよいでしょうか。

    【設例】  父に先立たれた後,実家で一人暮らしをしていた母が亡くなりました。長男である私は,仕事の合間に帰省し […]

    詳しく見る
  • 法定相続人と法定相続分

    1 法定相続人と法定相続分とは    相続が起こった場合に,遺言書で遺産を承継する人が指定されていな […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】パソコンで書かれている遺言書は有効でしょうか。

    【設例】  数日前に父が亡くなり,私と兄で父の遺品整理をしていたところ,「遺言書」と書かれた封筒が見つかりまし […]

    詳しく見る
  • 相続とは

    1 相続とは    相続とは,亡くなった方の権利や義務を,相続人と呼ばれる一定の親族に引き継がせるこ […]

    詳しく見る
  • 【よくある相談】 遺言書は何歳から書けるのでしょうか。

    【設例】   私は17歳の高校生ですが,昨年交通事故で母を亡くし,母の遺産を相続しました。父は,私が重い病気を […]

    詳しく見る
  • 遺言を撤回・修正する方法

     いったん遺言書を作成したとしても、相続が起こるまでに長い時間がかかる場合も多く、その間に事情が変わったことな […]

    詳しく見る
  • 公正証書遺言のススメ

     公正証書遺言を作成する方が増えています。日本公証人連合会によれば、平成28年に作成された公正証書遺言は、10 […]

    詳しく見る
  • 自筆証書遺言作成時の留意点

     遺言書は、その記載内容の実現を法律が保障するものですから、法律に定める方式に従って作成されなければなりません […]

    詳しく見る
  • 遺言によってできること(後編)

    <2017年12月15日(金)掲載「遺言によってできること」(前編)続き>   2. 遺産相続以外の […]

    詳しく見る
  • 遺言によってできること(前編)

     遺言書に記載したことは、法的に実現できなければ意味がありません。そして、遺言によって法的に実現できる内容は、 […]

    詳しく見る