相続放棄&限定承認

相続放棄&限定承認について

 相続には、プラスの財産(積極財産)だけではなく、マイナスの財産、つまり借入金など(消極財産)の受継ぎも起こります。そのため、相続財産として消極財産しかなかったり、積極財産があっても消極財産の方が多い場合には、相続人は相続により負債を負うことになってしまします。このような場合に、相続人が負債を負うことにならないようにするため、「相続放棄」と「限定承認」という手続が認められています。そこで今回は、相続放棄と限定承認について、ご説明します。

1.相続放棄とその手続き

 相続が起こった場合、相続人が何もしなければ、相続人はすべての相続財産を受け継ぎます。しかし、相続人は、相続財産の受継ぎを拒否することができ、そのための手続きを相続放棄といいます。

 相続放棄をするためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所において、相続放棄の申述(しんじゅつ)という手続きを、相続が起こったことを知ったときから、原則として3か月以内に行う必要があります(この期間を熟慮期間といい、申立てにより、家庭裁判所が期間を延長することができます。下記5及び6でご説明します。)。

 この手続きを利用するためには、家庭裁判所に対し、「相続放棄の申述書」という相続放棄の理由などを記載した書面と、下記の表に記載された必要書類を提出し、費用(相続放棄をする相続人1人につき収入印紙800円分と、家庭裁判所からの連絡用の郵便切手(各家庭裁判所に切手の種類や枚数を確認する必要があります。))を納付する必要があります。

相続放棄する方 必要書類
共 通 (1)被相続人の住民票除票又は戸籍附票
(2)相続放棄する方の戸籍謄本
被相続人の配偶者 (3)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の子(又は孫もしくは曾孫) (3)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(4)子の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本(相続放棄する方が孫又は曾孫の場合)
被相続人の父母(又は祖父母もしくは曾祖父母) (3)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(4)被相続人の子(又は孫もしくは曾孫)が死亡している場合、その子(又は孫もしくは曾孫)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(5)被相続人の父母(又は祖父母)が死亡している場合(相続人より下の代である場合に限ります。)、その父母(又は祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の兄弟姉妹(又は甥姪) (3)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(4)被相続人の子(又は孫もしくは曾孫)が死亡している場合、その子(又は孫もしくは曾孫)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(5)被相続人の父母(又は祖父母もしくは曾祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(6)相続放棄する方が甥姪の場合、兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

 相続放棄の申述書が受理されると、家庭裁判所は、相続人の相続放棄の意思が真意であるかどうか(他の相続人などから相続財産を受け取らないように強要されていないかなど)について調査のうえ審査が行われます。実際は、ほぼ形式的に審査が行われることが殆どです。

2.相続放棄のメリットとデメリット

 相続放棄をすれば、負債を相続しないこととなるため、被相続人が多重債務を抱えている場合などには、その責任を一切免れることができるメリットがあります。被相続人に資産を超える借金があるのに、相続放棄という手続きを知らずに、そのまま被相続人の負債を受け継いでしまう方もいらっしゃいます。このような場合には、相続が起こったことを知ったときから3か月以内に、必ず手続きを行いましょう。また、積極財産が相続できる場合でも、その遺産を他の相続人との間で分割するための手続き(遺産分割)は、非常に大変になることがあります。遺産分割手続きのせいで、他の相続人との関係が悪化してしまうことも珍しくありません。そこまでして遺産はいらないし、他の相続人との遺産の分け方についての話し合いなどしたくないとお考えの場合には、相続放棄の手続きをとってしまえば、煩わしい問題に巻き込まれることはなくなります。

 これに対し、経済的事情などから、相続財産を少しでも受け取りたいとお考えの方にとっては、相続放棄してしまえば、財産を相続することができなくなってしまうことになります。また、積極財産よりも消極財産の方が多いと思って相続放棄したけれども、後から積極財産の方が多いことが判明したから、やっぱり相続しますということも認められませんから(もっとも、そのような誤解が他の相続人にそそのかされたために生じたりした場合には、取消しが認められる場合もあります。)、慎重な対応が必要です。

 ただ、被相続人の積極財産と消極財産がどれだけあるのか、すぐにはわからないこともあります。調べてみた結果、消極財産の方が多かったけれども、既に熟慮期間の3か月が経過していたという事態は避けなければなりません。そのために、下記6で説明する熟慮期間の延長の手続きが認められていますので、この制度を利用して、相続財産の調査を十分に行うことが必要です。

3.限定承認とその手続き

 上記のように、被相続人に積極財産があるけれども消極財産も相当あり、プラスの財産が残るかどうかわからないという場合に、相続人が、相続によって取得するプラスの財産の限度でマイナスの財産を受け継ぐことを可能にする制度が、限定承認という手続きです。

 限定承認をするためには、相続放棄の申述と同様に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所において、限定承認の申述という手続きを、相続が起こったことを知ったときから、原則として3か月以内に行う必要があります(この期間は、相続放棄の申述の場合と同様となります。下記5及び6でご説明します。)。

 手続きを利用するためには、家庭裁判所に対し、「限定承認の申述書」という限定承認の理由などを記載した書面と、下記の表に記載された必要書類を提出し、費用(収入印紙800円分(限定承認は、共同相続人全員で申述する必要があるため、共同相続人全員で800円分となります。)と、家庭裁判所からの連絡用の郵便切手(各家庭裁判所に切手の種類や枚数を確認する必要があります。))を納付する必要があります。

 また、熟慮期間内に、相続財産が記載された財産目録を作成して、家庭裁判所に提出します。

限定承認する方 必要書類
共 通 (1)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(2)被相続人の住民票除票又は戸籍附票
(3)共同相続人全員の戸籍謄本
(4)被相続人の子(又は孫もしくは曾孫)が死亡している場合、その子(又は孫もしくは曾孫)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の(配偶者と)父母(又は祖父母もしくは曾祖父母) (5)被相続人の父母(又は祖父母もしくは曾祖父母)が死亡している場合(相続人と同じ代及び下の代に限ります。)、その父母(又は祖父母もしくは曾祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の配偶者のみの場合、又は被相続人の(配偶者と)兄弟姉妹(又は甥姪) (5)被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍
(6)被相続人の父母(又は祖父母もしくは曾祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(7)被相続人の兄弟姉妹が死亡している場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(8)甥姪が死亡している場合、その甥又は姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

4.限定承認のメリットとデメリット

 限定承認は、積極財産の範囲で消極財産を受け継ぐことが可能となる手続きであるため、相続人にとって合理的な制度であり、被相続人が生前、たとえば個人事業等を営んでいて、複数の事業用財産等を有する反面、負債もかなり抱えていたというような場合などには、有用です。

 しかし、実際には限定承認制度はあまり利用されていません。それは、限定承認の手続きが相続人にとって煩雑で相当な負担となるからです。上記のとおり、手続きのためには、共同相続人全員で家庭裁判所に申述する必要があり、その他にも、被相続人の債権者に債権の申出をするように催告し、その上で破産手続きのように清算業務を行わなければなりません。このような手続きを一般の方が行うことは難しい場合が多いでしょう。また、以上の清算業務において、手続きに不備があり、被相続人の債権者に本来弁済できたにもかかわらず弁済できなくなってしまった場合には、相続人は、その債権者に対し、損害賠償責任を負担しなければならなくなります。このため、限定承認手続きは合理的な制度であるにもかかわらず、残念ながら相続人が利用しやすい手続きとはなっていないのが現状です。

5.熟慮期間とは

 相続放棄と限定承認は、熟慮期間内に行わなければなりません。熟慮期間は、相続が起こったことを知ったときから3か月以内です。「相続が起こったことを知ったとき」とは、原則として、「相続が開始したこと」と「自己が相続人となったこと」を知ったときです。ただし、3か月以内に相続放棄又は限定承認を行わなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、そのように信じたことについて相当な理由がある場合には、熟慮期間は、相続人が相続財産が存在すると認識するか、普通であれば認識できたといえるときから3か月以内となります。

6.熟慮期間を延長する方法

 相続人が、相続財産の状況を調査しても、なお、相続すべきか、あるいは相続放棄もしくは限定承認すべきか決められない場合には、家庭裁判所に対し、熟慮期間を延長することを申し立てることにより、熟慮期間の延長を認めてもらうことが可能です。なお、熟慮期間は、相続人が複数いる場合には、それぞれに熟慮期間が始まる時点が異なりますから、各々の相続人が個別に申立てを行う必要があります。また、たとえば被相続人に子が1人と母がいた場合(配偶者は既に死亡)、原則として子が第1順位の相続人としてすべての相続財産を相続することになりますが、子が相続放棄したときは、第2順位の母が相続人となります。子の熟慮期間は、相続が起こったことを子が知ったときですが、母は、子が相続放棄するまでは相続人ではありません。したがって、母の熟慮期間は、子が相続放棄をしたために、自分が相続人となったことを知ったときから3か月以内となります。

申立てには、相続放棄又は限定承認の申述のように、下記の表に記載された必要書類と、費用(相続人1人につき収入印紙800円分と、家庭裁判所からの連絡用の郵便切手(各家庭裁判所に切手の種類や枚数を確認する必要があります。))を納付する必要があります。

申立人 必要書類
共 通 (1)被相続人の住民票除票又は戸籍附票
(2)利害関係人の場合、利害関係を証する資料(親族の場合は、戸籍謄本等)
(3)延長を求める相続人の戸籍謄本
被相続人の配偶者に関する場合 (4)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の子(又は孫もしくは曾孫)に関する場合 (4)被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(5)子の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本(申立人が孫又は曾孫の場合)
被相続人の父母(又は祖父母もしくは曾祖父母)に関する場合 (4)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(5)被相続人の子(又は孫もしくは曾孫)が死亡している場合、その子(又は孫もしくは曾孫)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(6)被相続人の父母(又は祖父母)が死亡している場合(相続人より下の代である場合に限ります。)、その父母(又は祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の兄弟姉妹(又は甥姪)に関する場合 (4)被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(5)被相続人の子(又は孫もしくは曾孫)が死亡している場合、その子(又は孫もしくは曾孫)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(6)被相続人の父母(又は祖父母もしくは曾祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
(7)申立人が甥姪の場合、兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

7.法定単純承認とは?

 相続人が、熟慮期間内に放棄等の手続きをとらなかったり、一定の行為をしてしまうと、相続放棄も限定承認もできなくなります。これを「法定単純承認」といいます。法定単純承認となるのは、以下の3つの場合です。

 第1に、相続人が、相続放棄又は限定承認を選択する前に、相続財産の一部でも処分してしまったときです。ただし、相続財産を維持するための行為や、一定の期間以内の賃貸借はこの処分には当たりません(樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借は10年、それ以外の土地の賃貸借は5年、建物の賃貸借は3年、動産の賃貸借は6か月までとなります。)。

 第2は、上記のとおり、相続人が熟慮期間内に相続放棄も限定承認もしなかったときです。

 第3に、相続人が、相続放棄か限定承認を選択した前後を問わず、相続財産を一部でも隠すような行為をしたり、消費したり、財産目録の中に故意に相続財産を一部でも記載しなかったときです。ただし、これらの行為をした相続人が相続放棄をしたことによって、相続人となった方が相続の承認をした後であれば、これらの行為が行われたとしても、その相続放棄に影響はありません。

 なお、相続人が、被相続人が死亡したことを知らずに相続財産を処分した場合などには、法定単純承認になりません。つまり、相続人が相続の開始を知っていたか、被相続人が死亡したことを確実に予想していた場合でなければ、法定単純承認とはなりません。

8.まとめ

 このように、相続財産として、被相続人に消極財産が残るようでしたら、法定単純承認が成立しないように気をつけながら、熟慮期間内に相続放棄か限定承認をする必要があることになります。相続財産がたくさんあるなど、手続きが大変になることが予想されるような場合には、弁護士に依頼されることをお勧めします。