相続の基礎知識

相続の基礎知識について

 「相続」と聞いて、皆様はどのようなイメージをお持ちになるでしょうか?亡くなった方の財産が、遺された家族のものとなって、その家族同士でどのように遺産を分けるのかについて話しがまとまらず、裁判沙汰になり、絶縁状態になってしまった。のれんを巡り、後継ぎ候補の兄弟が、骨肉の争いを繰り広げ、ワイドショーで大きく報道されているのを見たことがある。などなど、相続って大変なんだなぁというイメージをお持ち方が多いのではないでしょうか。

 たしかに相続にまつわるトラブルは増え続けており、相続に関する知識は誰しももっておくべき時代になっています。また、正しい知識をもとに遺言書を作成するなどの対策をとっておけば避けられるトラブルもたくさんあります。

 そこで、相続に関する基本的な知識をご説明いたします。

1.相続とは

 そもそも相続とは、一体どのようなことをいうのでしょうか?相続とは、亡くなった方の権利や義務を、相続人と呼ばれる一定の関係者に引き継がせることをいいます。

 人が亡くなったとき、その方が持っていた財産や権利、義務などが誰にも引き継がれないと、たとえば財産についていえば、その財産の持ち主がいないことになって、宙に浮いた状態になってしまいます。誰の物でもない財産が大量に発生してしまったら、いろいろな意味で困った状態になってしまいますから、相続制度は社会的に大変重要な制度であるということができます。

 また、人が亡くなった場合に、その方が関わっていたすべての権利や義務がなくなってしまうとしたら、たとえばその方と大事な契約をしていた人は、とても困ることになってしまうでしょう。

 そのため、人が亡くなった場合には当然に相続が起こることにして、生存している人に財産や権利、義務を引き継がせることにしているのです。

 そのような相続制度により、亡くなった方の財産や権利、義務がスムーズに次の世代に引き継がれて、社会の安定が保たれます。

2.相続の対象になるものと、ならないもの

 人が亡くなった場合には相続が起こることにしたといっても、すべての財産や権利、義務が相続の対象になるわけではありません。相続の対象になるものとならないものがありますので、以下で順番にご説明しましょう。

2-1.相続の対象になるもの

 まずは、相続の対象になるものを確認しておきましょう。相続の対象になるのは、基本的には被相続人(亡くなった方)のすべての資産や負債、権利、義務です。

 たとえば、預貯金や不動産、株式、投資信託や積立金、ゴルフ会員権や出資持ち分などがあれば、すべて相続の対象になります。

 また、借金などの負債も相続の対象になりますから、被相続人が借金していた場合には、相続人はその借金の返済をしなければなりません。借金だけではなく、未払の家賃や買掛金などがあれば、そのような債務も相続の対象になります(ただし、相続放棄という手続によって、それらの負債から免れることができます。)。

 さらに、被相続人の契約上の地位にも、相続の対象になるものがあります。たとえば、賃貸人や賃借人としての地位は相続の対象になることから、被相続人が賃貸マンションなどを借りていたケースでは、賃貸借契約が解約されない限り、相続人らが家賃を支払わなければならなくなりますし、逆に解約の際には、賃借人の地位に基づいて敷金の返還を求めることができるのです。

 一方、賃貸人の地位を相続した相続人は、当然、賃借人に対して家賃の支払を求めることができます。

 また、損害賠償請求権も相続の対象になりますから、交通事故の被害者の遺族は、事故の加害者に対して、損害賠償金の支払いを請求できます。

2-2.相続の対象にならないもの

 次に、相続の対象にならないものを確認しましょう。

 一般に、祭祀関係の財産は相続の対象になりません。たとえば墓石や墓碑、仏壇や仏具、神具などは相続の対象にはならず、祭祀承継者が承継することになります。

 また、被相続人の権利や義務の中でも、被相続人に一身専属的なもの(「その人」だからこそ認められる権利や義務で、他人に移転しない性質をもつもの。)は相続の対象になりません。たとえば、被相続人が会社で働いていた場合、雇用契約上の労働者の地位は、一身専属的なものですので、相続の対象にはなりません。父親が亡くなったからといって、その子どもが父親の代わりに会社に働きに行く必要がないのはこのためです。

 また、養育費の支払い義務や、養育費を受け取る権利も、特定の親子の間で認められるものですから、相続の対象になりません。たとえば、養育費の支払いをしている親が亡くなっても、その親と再婚したためにその親の相続人となる配偶者は、その養育費を受け取っていた子どもに対して、支払い義務を負うことはありません(ただし、その親が亡くなるまでに発生し、未払いとなっていた養育費については、通常の金銭支払義務と異ならないと考えられていて、相続の対象となることには注意が必要です。)。

 以上のように、相続の対象になるものとならないものの区別は重要ですから、まずはこの点をしっかりと押さえておきましょう。

3.法定相続人と法定相続分

 相続が起こった場合に備えて、法定相続人と法定相続分という概念を知っておくことが重要です。

 法定相続人とは、法律によって定められた相続人のことをいい、たとえば配偶者や子ども、親や兄弟姉妹などが法定相続人に当たります。もっとも、これらの法定相続人は全員が同時に相続人となれるわけではなく、法定相続人の間には、誰が相続人となるのかについての順位があります。また、法定相続人にはそれぞれ、法定相続分という相続できる相続財産に対する割合があります。以下の表をご覧ください。

法定相続人の組み合わせ 法定相続分
配偶者のみの場合 相続財産全部
配偶者と子(第1順位)の場合 配偶者が1/2 子が1/2
配偶者と親(第2順位)の場合 配偶者が2/3 親が1/3
配偶者と兄弟姉妹(第3順位)の場合 配偶者が3/4 兄弟姉妹が1/4

 まず、配偶者がいる場合には、配偶者は常に相続人となります。また、子どもは、第1順位の法定相続人となります。したがって、被相続人に配偶者と子どもがいる場合には、配偶者と子どものみが相続人となり、法定相続分は2分の1ずつとなります。

 次に、被相続人の親は、第2順位の相続人となります(親はいないが、祖父母がいる場合には、祖父母が第2順位の相続人になります。)。そして、子どもがおらず(ただし、子どもがいなくても、相続が起こったときに孫がいる場合には、孫が子どもの代わりに第1順位の相続人となるとされていて、同様に、孫がいなくても、曾孫がいる場合には、曾孫が孫の代わりに第1順位の相続人となりますので、ご注意ください。)、第2順位の親が相続人となる場合で、配偶者がいる場合の法定相続分は、配偶者が3分の2、親が3分の1となります

 最後に、兄弟姉妹は第3順位の相続人となります。子どもや親がおらず(第1順位・第2順位の相続人がおらず)、第3順位の兄弟姉妹が相続人となる場合で(相続時点で兄弟姉妹が死亡しており、その子がいる場合には、その子も相続人となります。)、配偶者がいる場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。

 以上のように、法定相続人と法定相続分は、遺産分割の基本である重要なポイントですから、是非とも押さえておきましょう。

4.遺言があるかないかによって、相続手続きが変わる

 相続に関する知識としては、遺言書も重要です。遺言書とは、被相続人の最終の意思を明らかにした文書です。多くの場合、誰にどの遺産を相続させるか(あるいは遺贈するか)が書かれています。

 相続が起こった場合に、有効な遺言書が残されていたならば、遺言書の内容が、民法の法定相続分の規定に優先し、遺言書の内容に従って遺産が相続(あるいは遺贈)されます(ただし、「遺留分」という、兄弟姉妹以外の法定相続人が持つ、民法により最低保証されている権利を侵害している場合には、遺留分の請求を受ける可能性があります。)。つまり、有効な遺言書があり、すべての遺産を誰に相続させる(あるいは遺贈する)のかについて適切に指定されている場合には、法定相続人が遺産分割協議をする必要はありません。そして、預貯金の払戻しや不動産の相続登記などの手続きの際に、遺言書があることによって本来必要な他の書類の提出が不要になるケースがあります。

 これに対して、遺言書がない場合には、法定相続人全員によって、遺産分割協議がなされる必要があります。遺産の分け方について全員が合意することができれば、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書を作成します。そして、有効な遺言書と同様に、遺産分割協議書を必要書類の一つとして、預貯金の払戻しや相続登記などの手続が可能です。

5.遺産分割協議はトラブルが起こりやすい

 遺言書がない場合には、法定相続人全員によって遺産分割協議がなされなければならないことを説明しましたが、この協議は、遺産の分け方を決める話し合いですから、トラブルが付き物です。たとえば、遺産の中に不動産が含まれていると、具体的にどのようにして不動産を分けるのかについて意見がまとまらなかったりすることがあります。

 つまり、相続人のうちの1人が不動産を取得することにすると、他の相続人との間で不公平になりますよね。その代わりにお金を払うことにしようとしても、果たしていくら払うべきなのか、決められない場合も多いのです。また、一部の相続人が、不動産を売却して分けようと主張するかもしれません。

 また、相続人のうち、献身的に被相続人の介護をしてきた人が、相続財産は自分の努力によって維持されたのだから多めに相続できるはずだと主張することもありますし(これを「寄与分」といいます。)、あるいは高額な生前贈与を受けた相続人がいる場合には、他の相続人から、贈与を受けた分は相続できる財産から減らされるべきだと主張されることもあり(これを「特別受益」といいます。)、まったく協議が前に進まなくなることも多いのです。

 遺産相続トラブルが起こると、まさしく骨肉の争いとなって、もともと付き合いのあった親族でも、完全に絶縁状態になってしまうことも多くあります。

 このように、遺言書がないと、遺産分割協議で大きなトラブルになってしまう可能性があるということは、相続に関する重要な知識として押さえておくべきでしょう。

6.富裕層でなくても遺産トラブルは多い

 遺産相続トラブルというと、富裕層の話であり、一般的な家庭には関係のない話であるとお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そのようなお考えはあてはまらなくなりつつあります。最高裁判所が刊行している平成25年度の司法統計年報によれば、家庭裁判所における遺産分割調停事件の約7割は、総遺産額が5000万円以下の家庭でのものですし、約3割は総遺産額が1000万円以下の家庭のものです。

 このように、遺産トラブルは決して他人事ではなく、自分の家庭にも十分起こり得るものだということを理解しておく必要があるでしょう。

7.遺言書を作成して相続対策をしましょう

 相続の際に遺産トラブルを避けるためには、遺言書を作成しておく方法が一番効果的です。ただし、遺言書を作成する際には、相続人の遺留分との関係に注意しなければなりませんし、遺言書が無効にならないよう法律にのっとって作成手続きを進めることが必要です。

 ですから、将来の相続トラブルに備えるためには、法律の専門家である弁護士に依頼して遺言書を作成しましょう。